LHC is back, and going even further !!

以下、少々長いですが、高エネルギー研究者会議 (... というものがあります) に流した報告のコピーをのせます。
--------------

すでに新聞のニュースなどにも書かれていますが、去年の9月の事故以降、復活の準備をしていたLHCがいよいよビームを使った運転を開始し、23日には 450 GeV(入射エネルギー)でのビーム衝突に成功しました。4つのLHC実験はそれぞれ最初の衝突事象を記録しました。

2008年9月の事故は、簡単にいうと電磁石の間での超伝導線の接続不良によるものでした。そこに大電流が流れた結果、スパークが起こり、真空容器に穴があき、大量のヘリウムが漏れ、その圧力で多数の電磁石が損傷を受けたわけです。その後の14ヶ月は、この事故に至った問題を理解し、更に隠れているかもしれない類似の不良を発見して修理し、万一類似の事故があっても大破壊に至らないための安全対策をおこない、そして現状の加速器の理解とその不定性に基づき、安全に運転できるエネルギーを見極めることがおこなわれました。2009年秋に再スタートが設定された最初の約1年間の物理プログラムでは、まず、確実に安全だと思われる2x3.5TeVから始める予定で、安全性が確認できれば 2x5.0TeV まで上げる可能性があります。

さて、この間ATLASは何をやっていたかというと 2008年10月末まで宇宙線データ収集を続けた後、一番外側のミューオンチェンバーからメインテナンスポジションへの移動を始め、順番にトロイド磁石、カロリメーターと開いていき最内部のインナートラッカーへのアクセスが可能な状態にして、検出器 , エレクトロニクスの修理 & 交換、データ解析の結果判明したケーブルスワップ の修正 (!!) など出来る限りの改善をしました。年明け4月頃から順次検出器を元の位置に戻し6月末にはすべてがRunning Positionに戻り宇宙線を利用したコミッショニングとして、特にシリコントラッカーのキャリブレーションとアラインメント、ミューオンシステムの位置 , r-t / t0 キャリブレーション、LVL1 トリガー相互のタイミング調整等を進めました。バレルのシリコントラッカーの位置精度が宇宙線データを利用して20ミクロンのレベルで理解されていること, Thin-Gap-Chamber (TGC) の出すLVL1 trigger timing がビームタイムよりも前に25nsec のレベルで調整されたことを日本チームが主導して到達したトピックの一例としてここに挙げておきます。

LHCは10月8日には全体が1.9Kの温度に安定し、10月23日にビーム入射のテストがおこなわれました。いろいろなチェックや軌道の調整などやりながら少しずつ進み(閉じたコリメータにぶつけてそれ以上進まないようにしながら)、11月7日にリングを半周してCMSに届き、11月20日には一周してATLASまで届きました。その直後からビームをリング内を周回させ、更にRFに捕まえてバンチを維持して長い時間リングの中にとどめることができるようになりました。ここまでは、去年もやったわけですが、さすがに2回目のせいか、去年よりはるかにすみやかにおこなわれました。そして、11月23日、2つの反対方向のビームを同時に入射し、加速はまだやってないので入射エネルギー450GeVで、軌道を調整しATLASで最初のビーム衝突をおこないました。その後、CMS, ALICE,LHCbでも衝突をおこない、それぞれの実験は最初のビーム衝突事象を記録することに成功しました。ちなみに、これまでのテストは全て(これからしばらくも)pilot bunchとかprobe beamとかいう、ビームあたり1-バンチだけの、強度も1/100程度の(~4x10^9protons)、万一どこかにぶつけても安全なビームを使っておこなわれています。

11/20夜から衝突のあった23日までの3日間、ATLAS は順調にデータを取得し続けました。20日夜はコリメーターにパイロットバンチをぶつけた結果、得られたミューオンの束通称、Beam Splash をトリガーして記録しました。この夜は合計66発が4つの期間に分けて時計回りのBeam-1 で6発、逆まわり 7発 (Beam-2) 、27発 (B2) 、26発 (B1) と数時間程度の合間をおいて連続して供給されました。最初の6発は activity を記録したものの、このために用意した2つのトリガーソースのうちのひとつが早すぎるトリガーを出したことが各検出器のモニターから数分のうちに同時に報告され、そちらをVETOして電磁カロリメーター中央リングのEnergy sum (14GeV) のみでトリガーをかける等の変更を限られた時間と喧噪と興奮の中で行い、以後の Splash を reasonable に記録するという一幕もありました。限られた時間の中で的確な判断、アクションを行えたこと、そのための材料が一瞬で出てくる所は ATLASがよく鍛えられたチームであることの証明だと思います。

2日目に安定に供給された周回ビームでは Beam Pick-up 信号による timing reference も確立し、それとのコインシデンスをとる形で すべての LVL1 trigger が enable され TGC も Muon Trigger を供給しています。また、事前のタイミング調整が功を奏しトリガーセクター相互の関係が既に1BC( 25ns ) のレベルでアラインされていることもビーム周回後、1時間で確認できました。2日目の夜 、その日 3回目 (!!) のランミーティングでは 翌日の衝突可能性が議論され、あれば一瞬で気付くためのレートモニター、各検出器でどの程度強気のHV設定をするか等、細かい議論を交わし、ほぼストーリー通りに3日目を迎え、13:20 頃から 2-beam がリングを周回、1時間後に衝突候補のイベントがコントロールルームに報告、16:00 前にコラボレーション内に絵付きで報告、夜、Press Release となりました。いろいろな cut で 候補イベント番号をリストしながら、各種の解析を進めつつ、更なる検出器の調整を進めているところです。

今日11月26日、16:00 (日本時間 24時)から、加速器ディレクター Steve Myer氏によるLHCの現状報告と、4つの実験からの報告をおこなうセミナー (Jamboreeともいう)がCERNでおこなわれます。

http://indico.cern.ch/conferenceDisplay.py?confId=74907

まだ始まったばかりで、まだ実のところ加速器も実験も山のようにやることがありますが、いよいよTeV領域を直接に探る物理プログラムの開始が確実に近づいているようです。これまでの経過や今後の進展を手軽にみるためのURLをいくつか下にリストしました。


References:

石野 雅也 (KEK) , 川本 辰男 (東京大学