CERN理事会とLHCの予定に関して

2008年12月12 日にCERN理事会がありました。CERNのメンバー国の代表が集まる会議で年に3回開かれます。日本はオブザーバー国として公開セッションなどの限られた会議に出席・発言できます。
 理事会ではLyn Evans LHC Project Leaderから、LHCの現状と今後の予定の報告がありました。それらを簡単に紹介します。
理事会に先立ち、事故の原因と対策に関しての詳しいレポートが発表されていますので詳しくはそちらを参考にしてください。和訳もこちらからとれます。この報告と理事会での口頭報告の両方の情報をもとに簡単にまとめます。

?9月10日のLHCビーム初周回が成功した時点で、8つのLHCセクターのうち、7つのセクターは5TeVまでの運転が可能なことが確認できており、残りの一つ(セクター34)は4TeVまでの運転が可能であることが確認できていた。
?10日の初周回は非常に迅速に達成できた。さらに翌日には高周波によるビーム捕捉にも成功した。計算器でのシミュレーションと実測値もよくあっておりLHCが優れた完成度で建設できていることを示した。
?ビーム衝突の準備をしていたところで、トランスの故障がおき、その交換のために数日ビームを出せないことになった。この機会を利用して残りのセクター34の5TeV運転へのコミッショニングを行っていたところ9月19日にヘリウムの多量流出問題が起こった。
?故障の第一原因は、二つの磁石間での超伝導線の接合部にごくわずかの抵抗があり、大電流に伴い加熱し温度が上昇して超伝導状態が破れることにあった。その際に発生した高電圧により、真空容器との間にアーク放電が起き、これにより穴が開いて真空容器内に急激に多量のヘリウムが流出した。電気的なクエンチ保護回路等は、設計通り作動した。
?ヘリウムの流出により、真空容器内の圧力が急激に上がった、減圧の排気バルブは存在したが、想定外の多量流出には不十分で、内部圧力が4-5気圧に達したと思われる。これにより真空隔壁が破れ、その隔壁を装備した磁石が大きく動いた。第一原因より、この高圧力による二次被害が大きくなった。被害の状況写真は12月5日のCERNのプレスリリースに載っています。
?接合部の抵抗値を検査する手法を開発し、残りのセクターを検査した。問題のある接合部は見つかっていない。2台の磁石で内部に接合で若干の抵抗を示すものがあった。これまでの励磁試験では問題が起こっていないが、取り出して調べる。
?今後同様の問題が起こらないように対策方針を決めた。まず通電中に接合部の抵抗を直接測定するためのモニター回路を取り付ける。さらに、ヘリウム流出が起こった場合に容器内の圧力を下げるために、解放バルブの増設を行う。前者が接続異常をいち早く検出してヘリウム流出に至る前にLHCを安全な状態に戻すための対策であり、後者は万が一流出が起こっても大きな二次災害を起こさないようにする対策である。
?問題のあったセクター34からは、39台の双極磁石と14台のショート・ストーレート・セクション(SSS)を搬出して修理を行う。12月末までに47台を搬出し、残りの6台は1月初めに搬出する。一方で予備を使って12月中に4台の双極磁石の再設置が予定されている。
?真空隔壁を備えたSSSをトンネルに固定するコンクリートのアンカーの補強を12月中に行う。
?3月末までにはセクター34のすべての磁石をトンネルに再配置する。6月末までには冷却を完了させ、LHCへの入射を始められるようにする。このスケジュールでの仕事表ができており、交換部品、マンパワー等の目処も付いている。
?これらの報告をもとに理事会において、LHCの進め方に対する議論を行った。既に議論がされた、SPC (Science Policy Committee)およびFinance Committeeの委員長よりコメントがあり、両委員会とも、LHC加速器が非常に優れた加速器であることを確認し、困難な状況で迅速な問題解決にあたっている現執行部を支持することを表明した。また、SPCは、MAC(Machine Advisory Committee)の意見にある、加速器の新しいクエンチ保護システムに関して、外部専門家の意見を聞く機会を設ける件を支持した。またFCはLHCの補修にかかる費用に関して、CERNの物品費からの支出での見通しを述べた。また現所長、および次期所長ともに、早期に対応策をたてて来た現チームを賞賛した。非常に忙しいスケジュールで無理に急ぐことはしないが、来年に衝突実験ができると確信していると述べた。理事会も今後の方針を了承した。

理事会に関してはCERNからもプレスリリースが出ています。また、これまでの理事会の日本語報告はこちらに載せてあります。

10月19日のような大量放出事故が起こらないように、また問題が万一起こっても今回のような大きな被害がないように対策を立てつつあります。大きな問題が起こって、なかなか心理的にもきついところで、原因の究明に真摯に取り組み、改善方針を定め、実行にうつしていくというのは非常に大変なことだと思います。
 Evans氏を中心と下LHCのチームが、最高のチームであることを理事会は確信しました。

 ビームの入射が始まるのが早くても7月になるので、初めての衝突は夏以降になります。丁度1年遅れた感じですが、実験グループも測定器をより完璧にもっていくように調整しています。

    徳宿