ビームはなくとも ... ATLAS Shutdown & Recovery [2]

東大素粒子センターの 石野 です

10/20 8:30 a.m. 2008年 ATLAS シャットダウンプロジェクトの第一歩として、ジュネーブ側のEnd-Cap に位置する Muon 検出器、通称 Big Wheel がメインテナンスポジションへの移動を開始した。


多分、背景説明が少し必要。まずは、Big Wheel と呼んでいる物体(上記写真 CERN 提供)。これは直径25mの48角形、 つまり 巨大で ほぼ円形状をしている、 というわけで  Big Wheel というニックネームのついた構造体である。台形をしたものが  TGC ( = Thin Gap Chamber ) と呼ばれるガス検出器 ( 1m x 2m ) でイスラエル、日本が共同で3600台、1999年頃から2006年中頃までかけて作成し続けた。ポイントはここにある。
  移動中、何かの間違いで事故を起こして激突、破壊という目にあったら、保険がいくらかかっていようとも、お金をいくら積んだとしても、リーズナブルな時間内にブツは戻ってこない。THE END 従って この様な移動のオペレーション時は緊張が走る。今まで、多分 ... 40~50回、移動の立ち会いをしてきたが、毎回、とても緊張する 。。。 緊張するべきだが、セオリー通り、慣れてきた頃に危ない経験をしたこともあった。割と早い時期にそういう目にあい、以来、手順、人の配置等、方法論を確立させたこともあり、本当に危険な目には合っていない。それでも、移動途中で障害物に気付いた等のヒヤリとする場面には日常的に遭遇する。なにせ敵は直径25mの物体、ひと目で危険を察知することは不可能である。油断は禁物。


さて、この巨大なものは どのように動くのか? まず、この Big Wheel どのように支えられているのかを理解するために最初の写真を見ると、時計の2時と10時に相当するあたりで、構造体の腕が横へ伸びているのがわかります。Big Wheel はこの腕2本で支えられています( << 十字懸垂をしている感じ ... )。この腕を上記写真のオレンジ色の台車( シャリオ = chariot )にのせ、ゆっくりとレールの上を6m移動させてやる。移動スピードは 1cm/min. から 15cm/1min. まで変速可能で、最初の 5cm は 1cm/min. で走りだし、各部に配置した人々からの OK の声を聞いたら、5cm/min. 、10cm/min. 、 15cm/min. と速度を上げ一定速度で運転する。走行距離、目的地までの距離、2台の(=両側の)台車の synchronization の状態 (通常0.5mm 以内で制御されている)、これらを慎重にモニターしつつ、障害物が無いことを確認しつつ、何とも言えない時間を過ごす。15cm/min. で BigWheel が移動している時は、形容しようの無い迫力がある。そして、目的地10cm手前で減速し、最後は最低速度で目的地に達する。

今回も、事故なくスムースに全作業を終えることが出来た。めでたし、めでたし。
あ?、よかった!